鮮やかな花のような笑顔


まだ少し肌寒い、春が始まる季節の空は、青く澄んでいる。
風は冷たいが、冴えた空気が凛々しさを思わせる。
それでも日差しの包み込むような温かさを感じながら、若い緑の木々をぼんやりと見つめた。

「変わらないものなんて、ない」

いつか言った言葉の通り、世界は変わり続けている。
見つめるこの木も、季節によって姿を変え、年を経てより逞しく成長して行く。
自分だって、ヒトより遥かに長く生きる時間の中、不偏と思われた時が瞬く間に変わって行くのを、自分にとってみればほんの僅かな時間の中で実感した。

でも。

「変わらないものも、あるのかもしれないね」

矛盾する言葉を、小さく笑って呟いた。
色褪せる事無く、変わらずに残るモノ。

「いいや、あるんだ」

変わり続ける世界の中で、何一つ変わらずに在り続けるもの。
でもそれは、世界の中から切り離されたもの。

その時間が、止まってしまったもの―


風や雨に晒されて傷が刻まれた墓石は、長い時間を越してきた事を物語る。
だが、少しだけ薄くなってしまった墓標の名は、変わらない。
事実は変わる事無く、在り続ける。

そして――

手に持った白い花束を墓標に捧げ、そっと手を伸ばし、優しく撫でた。
刻まれた名を愛しげに見詰め、微笑む。

「ただいま、ロゼット」

この言葉だけは毎年変わらず、君に告げる。


―― おかえりなさい クロノ


瞼の裏に描く笑顔は、咲き誇る花のように鮮烈に。
鼓膜に蘇る声は、優しい音色で色褪せず。

変わらずに、そこに在る。
例え幻聴でも、幻影でも。

君の姿だけは、色褪せずに変わらないままで、この胸に在り続けるから――


君の死はいつまでも訪れないよ、ロゼット。

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