Have a heart


attention!!
以下の内容にはランシーン×ハルカのR-18要素が含まれています






「貴方も苦しんでいるのね…」

力を取り戻す方法を必ず見つけると大層な啖呵を切った女は不意に黙り込んだ後、独り言のようにそう言葉を零した。
何気なく呟いたのだろう。だが、その誰かに重ねている一言が無性に腹が立った。
「お前に何が分かる!」
女の身体を掴み、デスクの上に乱暴に押し倒した。痛みに顔を歪めながらもこちらを見上げたまま、逃げようとしない女の姿にますます苛立つ。その顔をめちゃくちゃにしてやろうかと、凶暴な思いが不意に湧き上がった。恥辱に濡れた泣き顔に変えたら、気分は少しは良くなるかもしれない。
女の手を一纏めに頭の上で押さえつけ、空いた手で胸元に爪を引っ掛ける。
「…私を辱める気?」
「なら、どうする?」
苛立ちを隠せず問い返せば、冷静な瞳がこちらを見返してきた。
「それで貴方の気が収まるなら、そうすれば良いわ。その荒れた気持ちを子供達にぶつけないで」
「その身を私に捧げるとでも?」
「それで子供達を守れるなら」
即答する姿に蔑みの笑いを浮かべる。
「見上げた献身だな。いいでしょう、貴方の身体一つで子供達の安全は保証しましょう。別に痛い事はしませんよ?せっかくだ、楽しもうじゃないか」
くつくつと笑いながら、その胸元を乱暴に引き下ろして、ゆっくりと見せつけるように舌を這わせた。
「なんなら、アイツに抱かれてるとでも思えば良い」
神経をわざと逆撫るような提案を口にしながら、女の柔肌を舐る。微かに震える身体は恐怖の為か、それとも怒りか。顔を背け唇を噛み耐える姿に、嗜虐心をそそられていく。
「ああ、目を閉じた方が良いんじゃないか?その方が、アイツに抱かれてると思いやすい」
ニヤニヤと笑いながら囁いてやると女は睨みつけてきたが、すぐに目を閉じ力を抜いた。
抵抗する気が無いのを見て取って、押さえていた手を解放してやる。そしてまたゆっくりと、その首筋に胸元にと舌を這わせていく。
女の白く柔らかな張りのある肌を舐め上げる度、ピクリと確かな快感の反応を返す事に密かに笑いを噛み殺す。少しずつ確実に感じる箇所を探りながら執拗に責めていった。
抑えきれない喘ぎを零して乱れ始めた女を見下ろし、そろそろ良いかと濡れてヒクつく秘所に自身を擦り付け充てがう。
と、小さなか細い声が耳に届いた。
「…シロン、さん…」
確かにアイツだと思えば良いと言ったのは自分だ。
だが。…だが。
今、この瞬間に、奴の名を呼ぶのか。
何故か言いようの無い苛立ちが感情を支配し、その感情のまま乱暴に貫いていた。悲鳴が身体の下から聞こえている。痛みに泣く声を聞きながら、遠慮なく自身を突き上げていた。
痛い事はしないと言った筈だった。
それなのに、身の内で荒れる激情に任せて自分本意にこの女を組み敷いて、自分の快楽の為だけに腰を振っていた。
滑稽だな、と暫くして冷静に戻った頭が自嘲する。
見下ろした女は腕で顔を覆い、堪えきれない喘ぎを小さく零していた。時折、掠れた声でか細く奴の名前を呼びながら。
それを耳にする度に、荒れ狂う感情のままにこの女を犯し続けてしまいそうになる。それでは駄目だ。奴ではなく、この自分に与えられる快楽に堕ちてしまう背徳感に、そして罪悪感に打ちひしがれる姿が見たいのだ。
そう、奴を想いながら他の男に抱かれて喘ぐ女の無様さを見たいだけなのだ。
一度大きく息を吐く。
先程とは打って変わって、ナカにいる自分を分からせるように、ゆっくりと優しく揺さぶってやる。戸惑うような喘ぎが、隠された顔からこぼれ落ちるのを確認しながら、じっくりと女の悦ぶ場所を探りながら腰を動かしてやる。
乱暴な動きから一転、ゆっくりと焦らす動きに反応してか、女のナカもこちらを締め付けてくる。これにはこちらも思わず気持ちよさに吐息が零れる。その内に無意識か焦ったそうに腰をくねらせてきたので、わざと耳元で笑い含みに囁いてやった。
「自ら腰が動いているなぁ?ああ、もっと欲しいと私を締め付けているのが分かるか?」
女の奥をぐりっと抉るように強く突き上げると、途端に甘い声が上がり身体が跳ねる。待ちかねた様な反応に薄く笑うと、速度を上げて激しく奥に自身を打ち付ける。そのうちに、女のナカが更に奥へ誘うように怒張を締め上げてきて、絶頂が近い事を悟る。上擦った切羽詰まる喘ぎ声に合わせて何度も突き上げるうちに自分も限界が近づいて、思わず熱い息をこぼした。
それと共にほとんど無意識に、女の名を囁くように呼んだ。呼んでしまった。
すると、顔を隠していた腕が外れて女の顔がこちらを見上げ、確かに視線が絡み合う。
「…ラン、シーン」
そう呼んだ。こちらを見て、私の名を。
それを意識すると同時に自身が反応し質量を増した。女もそれに呼応し甘い声を上げる。熱くうねり締め付けてくる女の最奥を、衝動のままに何度も突き上げ、果てた。小さく唸りながら女の中に白濁を吐き出し、ビクビクと肢体を跳ねさせ絶頂する女の顔をしばらく見下ろしていた。
女は呆然と荒く息をついていたが、緩慢に腕を上げると再び顔を覆い隠し小さく嗚咽を漏らし始めた。その中に再び奴の名が聞こえてきて、思わず奥歯を噛み締める。
何故かその姿が無性に腹立たしかった。
女を蹂躙し、欲を吐き出し、強気な顔を快楽に喘がせ泣かせたと言うのに、気分は晴れるどころか鬱々としたものだった。
目でも閉じて、あの白いウインドラゴンに抱かれてるとでも思えばいいと言ったのは他ならぬ自分だ。だが、実際にか細い声で奴の名を女が呼ぶ度、胸の内の凶暴な思いが増す。
何度も奴の名を呼んだくせに─
「くそ…っ」
なぜ、こんなにも苛つくのだろうか。
答えはわからぬまま、声を押し殺して泣く女の姿を剥ぎ取ったマントで雑に覆い隠して部屋を出た。

* * *

女と共にシロンと対峙した時、ヴァンパイアに痛めつけられているシロンを見下ろしながら、今ここでこの女を犯したらシロンは─いや、この女はどんな反応をするだろうか。そう考えてぞくりとしたものが背を上る。
じっとりと女を見つめていると、それを悟られてギッと睨まれる。殺されそうな視線に、満足して笑った。
結局、ヴァンパイアはグリフィンに敗れ、奴を倒す事は叶わなかった。
その腹いせに、戻ってからその事を持ち出して女を責め立てた。
「あの場でお前を組み敷いて見せ付けるように犯したら、アイツはどんな顔をしただろうな?」
嗤いながら女を押し倒すと、再びあの瞳でギロリと睨み付けられ、さらに笑みを深くした。
ロクな前戯もせず、女の秘部に猛りを捻じ込み性急に突き上げる。
抵抗できず、ただ睨む事しか出来ない。憎いであろうこの自分を瞳に写し、犯され与えられる快楽に喘ぐしかない女の姿に酷く興奮する。
呻き声が喘ぎに変わり始めた頃合いに、腰を大きくグラインドさせ女の良いところを遠慮なく突き上げていく。堪らずに女の身体がしなり、抑えきれない甘い声が上がった。
「今みたいな顔を晒さなくて良かったなぁ?」
嘲笑いながら腰を動かしたままに顔を覗き込むと、女は歯を食いしばって嬌声を堪えながら射殺さんばかりに睨み付けてくる。その瞳に自分が写っているのが、堪らなく愉しくなって嗤いながらいつもより激しく、そして執拗に女を抱いた。

「ぐ、ぅ…ッ」
何度目かの射精後、大きく息を吐き自身を引き抜く。放心している女がごろりと転がり、秘部からは何度も吐き出した精が収まりきれずにごぽりと溢れ出していた。見下ろした女は、力なく身体を投げ出したまま荒く息を吐いている。常ならば、終われば体を引きずってでも直ぐに立ち去るのだが、今日は虐めすぎたようだ。一向に起き上がる気配がない女に、自然と手が伸びていた。
汗が流れるその頬を、するりと撫でる。
すると、驚いた女の顔に見上げられ、そこでようやく自分が優しく頬を撫でていた事に気が付いた。
今まで一度も、犯す以外に触れたことなど無かったのに。まるで果てた女を労わるように触れるなど。今更。
無意識の自分自身の行動に狼狽し、女から手を離し身を引く。そして、女の視線から逃れるようにいつもの自分の定位置へ座り込んだ。
視界の隅で女がフラフラと立ち上がる。黒いマントを身体に巻き付けると、重い足取りで部屋を出て行った。出る間際に視線を感じたが、其方へ顔を向ける事はしなかった。
気配が消えた後、指先に残った女の柔らかな感触を忘れるように、きつく拳を握りしめた。

* * *

どんなに力を込めて引っ張っても、この身体の拘束は外れなかった。
撃ち込まれた杭はいくつも深々と翼に突き刺さり、身体を縫い付けている。さらに四肢を拘束する強固な鎖に唸り声をあげ、諦めきれずにもがいていたが、やがて疲れて項垂れた。
そこへ、足音が聞こえてきた。
コツコツと近づくヒールの音に顔を上げると、予想通りの姿がそこにあった。
「これでお前は私から解放された訳だ…安心したか?」
自嘲の笑みをこぼす。
「…ええ、いい気味だわ」
吐き捨てた言葉とは裏腹に、女の顔は複雑そうにこちらを見上げていた。
どこか痛ましげに、拘束している鎖に視線を走らせていた。
「その割に、なんだその顔は」
「…貴方の事は許せない。でも……」
言い淀む女に視線だけを向けて続きを促す。
「…貴方は何故、私の名前を呼んだの?」
思いもしない問い掛けに、目を見開く。
そして、答えを求める女の視線から顔を逸らした。
そうか、聞こえていたのか…
初めて抱いた時以外にも、吐精後にその耳元で、荒くつく息の合間に紛れ込ませて囁くように名を呼んでいた。気づかれない様に密やかに。
「ただ、欲を満たす為じゃ無かったの?抱く度にあんな風に呼んで…あの時も、まるで労るように頬を撫でて…」
戸惑う声に、喉の奥で笑う。
なんだ、何も響いていないと思っていた。
困らせるくらいは出来ていたことに、初めて満足が芽生えた。
「…なんの事だ?私は私の欲を満たしただけ」
彼女を笑いながら見下ろし答えてやると、しばらくの間じっと探るように顔を見つめられた。そして、そっとため息をつくと彼女はこちらに背を向けた。
「…そう。…もう、いいわ…」
マントを翻し去っていく後ろ姿を見つめる。
少しは彼女の中に自分を刻めた事が分かり、独り小さく笑った。

* * *


「私を見ろ…!!」
もちろんジャバウォックへ向けた言葉ではあった。だが、ジャバウォックの心臓へ取り込まれかけたハルカにも向けた言葉でもあった。
驚いた顔でこちらを見上げる瞳には、確かに自分が写っていた。
「ランシーン…」
名を呼ばれ、それに満足して笑いながら目を細めた。
ああ、やっと。目を合わせてもう一度名を呼ばれた。誰かを重ねず自分だけを見て、自分の名を。
最後に念願が叶い、思い残す事はもはや無い。
拘束が解かれ母と抱き合い再会を喜ぶ姿に声を掛けると、もう一度ハルカと目が合った。
「怖がらせてすまなかったですね…ですが、もう大丈夫ですよ。貴女は自由だ」
彼女の母親への謝罪の言葉。しかし後半はハルカに対しても向けた言葉。目を見開く姿にニヤリと笑ってやった。
そして、ジャバウォックの心臓を強く抱き込んだ。ユルのカムバックもあり、ジャバウォックが弱体化していくのが分かる。周囲が崩れ始め、シロンに逃げろと促した。
奴はこちらの意志を汲み、喚く風のサーガと共にハルカとその母親を連れて飛び去っていった。
「ランシーン…!!」
その間際に、もう一度ハルカが名を叫んだ。
遠のいて行く声に目を細め笑みを浮かべる。
ああ。
シロンを通じてハルカの様子が見える。こんな自分の名を呼んで泣いている。酷いことしかしなかった自分の為に。
ああ、ああ。満足だ。
心を持つと言う事は実に良い気分だ。

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