アドバイス


ランチタイムで賑わう、イチオシのカフェ。
ちょっだけレトロながらも、オシャレで落ち着いた雰囲気。加えて腕の確かなマスターの作る料理はどれも美味しい。
そんなカフェでBBは、ハルカとランチを共にしていた。
「これ、とっても美味しいわ、BBさん!」
「口に合って良かったわ。ここ、お気に入りなのよ」
前に働いていた会社のCEOのご令嬢と友達になるなんてねぇ、と思いながら料理を口に運ぶ。
それもレジェンズ絡みで知り合い、幾度となく吹っ飛ばされたあのシロンの恋人ー…
ん?そう言えば、勝手にそう思ってたけど、付き合ってるのかしら、と今更疑問に思う。
そういう風に紹介はされてないわね、とBBは素直に目の前のハルカに聞く事にした。
「ねぇ、ハルカさん。あなたとあのシロンと、どういう関係なの?」
ストレートな質問にハルカは思い切り咽てしまった。
そんなハルカにナプキンを差し出しながら、彼女の反応に首を傾げた。

BBの職場であるダックダックカンパニーは、シュウゾウ・マツタニの友人であるディーノ宅の広い庭の一角にある。
なのでディーノ宅には、頻繁にシュウやその仲間たちとレジェンズがよく集まるのだ。
その中にハルカも時々混ざっていて、そこで声を掛けたのが仲良くなったきっかけだった。
シュウが居ればもちろんシロンがいる。
大体は子供たちやレジェンズと戯れていたが、時折シロンの隣にハルカがいた。
まあ一緒にいるのだから会話くらいするだろうと思っていたが、何度か並ぶ2人を見ているうちに、ピンと来るものがあった。
ハルカがシロンの事を見上げる瞳は明らかに好きな人を見る目だった。ぽーっと眺めていたり、頬を染めて嬉しそうにしていたり。
対してシロンも、子供たちや他のレジェンズと接する時より距離は近いし、誰よりも気に掛けていたし、特別に扱っているように見えた。
要は第3者から見れば、お互い想い合ってるのが一目瞭然だったので、ああ2人はそう言う関係なのかと思っていたのである。

「ど、どうって言われてもー…」
口元を拭きながら、ハルカは真っ赤になって説明しようとして、ふと気づいたように言葉を止めた。
「…どう、なんでしょう…」
打って変わってどよーんと落ち込んでしまったハルカに、今度はBBが慌てだした。
「え!?ちょ、なんで落ち込むのよ!!どういうことなの!?」
BBは改めてシロンとハルカの関係を確かめるために、どんよりするハルカに色々と聞き出した。その結果。
「つまり、まだ恋人関係ってわけじゃないの?」
「はい…たぶん」
歯切れの悪い返答に、眉根を寄せる。
「たぶん?」
「そ、そのー…シロンさんは優しいし何かと気に掛けてくれるし、側にいてお話するだけで嬉しいから、それだけで満足っていうか…」
ハルカは顔を赤らめてもじもじしながら話を続ける。
「そ、そもそもぉ…男の人とお付き合いした事ないから、こっ恋人らしい事とかよく分かんないし…シロンさんとそんな事…か、考えるだけで恥ずかしい…ッ」
きゃーっと赤い顔を手で覆って恥じらう姿を眺めて、こんなに美人なのに恋愛初心者かぁ…可愛いわぁ…と、思わず微笑ましくなってしまうが、相談中なので我慢。
「大前提として、告白はしたのよね?」
「…ええ。シロンさんが消えてしまう前に、最後に」
「その時に返事は貰わなかったの?」
「返事を貰う事よりも、あの時は伝えられた事だけで満足してしまって。そう言えば彼がどう思ってるかとかは…考えた事なかったなぁ…と」
なるほど。別れの間際の告白では、返事よりも相手に想いを伝えるだけで精一杯なのは、仕方がない。
「じゃあ、シロンはあなたの気持ちは知ってるって事よね?」
「ええっと…おそらく…忘れて無ければ…」
「…レジェンズたちが復活して、シロンと再会した時に何も言われなかったの?」
そう、今はレジェンズは復活しているのだ。
それなのになんとも中途半端な関係で止まっているのが腑に落ちなかった。
「…んーと、感極まって大泣きしてしまって…会いたかったって言ったら俺も、くらいしか言われてないような…?あ、でも…顔を擦り寄せられたり、手を繋いだりしたけど…これって誰にでもする事じゃないですよね…?」
「…はぁ~~~~~~」
BBは思わず、盛大にため息をついた。ついでに盛大にむかついた。
シロンはあれだ、態度で示して言葉にしない(できない)タイプだ。相手にも自分の気持ちが伝わってると思い込んでるやつ。
「BBさん…?」
「ダメよ!そんな男!!好きだとか愛してるとか一言くらいハッキリ言いなさいよ!!言わなきゃわかんないってのよ!!何が察しろよ!!!」
だん!っとテーブルを拳で叩くBBにハルカどころか周りの客もびっくりする。
はっと我に帰り、咳払いをして居住まいを正した。思い切り私情が入ってしまった。
「ごめんなさい、取り乱したわ…とにかく、言葉ではっきり言ってもらったことはないって事ね?」
「…は、はい…」
おそらくシロンは、ハルカの気持ちが自分にあるのは分かっている。分かってはいるが、ハルカが初心過ぎて手が出せず、それでいて、彼女の好意に甘えて言葉にしていないのだろう。
「自分たちがどんな関係なのか分からなくて不安だと」
「…はい…シロンさんも私と同じ気持ちなのかなーっとは思うんですけど…直接言われたこと、無いなぁ…って」
シロンもハルカもお互いに遠慮というか、相手の出方が分からず、次に進むきっかけが無いと言ったところか。
ハルカは恋愛初心者、シロンはそもそも人間ではない。異種族同士では仕方ないのかもしれないが、想い合ってるのだから悩む事などないだろうに。ああ、焦ったい。
手っ取り早いのは、分からないなら聞けば良いのだ。言葉にしなければ、伝わらない。
「それなら、もう一度貴女の想いを告白なさい」
「えっ!で、でも…は、恥ずかしいし…」
再び赤くなってもじもじし始めるハルカに、ずいっと詰め寄る。
「ちゃんと言わなきゃずっとそのままよ?」
「うう…」
「もやもやしたままは嫌でしょ?」
「はい…」
頷きながらも、実行を渋る彼女へウインクして励ましてやる。
「大丈夫よ、あんな態度しておいて貴女を泣かせる真似したら、アタシがぶっ飛ばしてやるわ」
BBが拳を握りしめて殴るしぐさをすると、ハルカが笑う。
「ふふ、頼もしいわ」
やっと笑った友人に、こちらも笑い返した。
「良い?あなたも受け身じゃ駄目よ。たまには攻めなきゃ!」
「はい、頑張ってみます!」
そうして恋愛相談はひとまず和やかに終わったのだった。




「ハルカさん!子供たちも勢ぞろいね」
数日後、レジェンズたちと子供たちがディーノ邸に遊びに来ていた。
BBは作業場からその中にハルカの姿を見つけ、休憩を兼ねて外に出る。
ついでに俺たちも~とJJがついてきていたが、いつもの事なので気にせず、ハルカに声を掛ける。
「BBさん!」
こんにちはと笑顔で挨拶されてこちらも笑い返すと、憎たらしい声が割って入ってきた。
「うわ、おばっちょだ!」
「誰がおばっちょだ!!」
相変わらず失礼な小僧に一喝する。
後ろで、あまり怒ると化粧が!とか声が聞こえてたので、そっちにも怒鳴ろうとして、ハルカが諌める様に割って入ってきた。
「あのっ、この間はアドバイスありがとうございました」
この間の相談の事だろう。すっきりしたような顔を見て、問題は解決したのだと悟って笑い返した。
「あら、その様子じゃ、ちゃんと言えたのね?」
「はい。ちゃんとお話しして、それで…」
と、ハルカはここまで言って真っ赤になって黙ってしまった。
その様子に思わず近くに居たシロンを見やる。
「あ?なんだ?」
視線に気付いたシロンが、怪訝な顔を向けてくるのを無視して、ハルカの肩をガッと掴む。
上手く行ってるのは友人として嬉しい事ではあるが、それ以前に大きな問題があるのだ。
初心過ぎる彼女には、一言忠告すべきであろう。あの白いデカいのが相手なら尚更。
「いい事、ハルカさん。いくら恋人だからって無理矢理なんて事、許されないわよ?その体格差生かして抵抗出来ないような事されたら、すぐに私に言うのよ?ていうか、アイツに痛い事されてない?大丈夫??」
「え?」
きょとんと見返してくるハルカから、こちらの話が聞こえていたのか嫌そうな顔をしているシロンへと、釘を刺す様に睨みつける。
「…そこで、俺を見るなおばっちょ」
「誰がおばっちょじゃ!」
小僧共々失礼な物言いに言い返していると、シュウが割って入ってきた。
「なんの話してんだ?」
空気を読まず…と言うか、よく分からず突っ込んできたシュウをシロンはめんどくさそうに一蹴する。
「お子様は黙ってろ」
もちろんシュウはムキーッ!と怒り出した。
「んだと、でかっちょ!!なんだよ、お前ハルカ先生いじめてんのか?そんなん、俺も許さねーぞ!!」
よく分からないなりに、ハルカがシロンに何かされているのは分かったのだろう。食ってかかるシュウにシロンはため息をつきながらも、反論しながらハルカの側に立つ。
さらに見せつける様に、その大きな手でハルカを抱き寄せた。
「別にいじめちゃいねーよ。可愛がってるの間違いだろ?なぁ、カワイコちゃん」
意味ありげな視線で彼女を流し見るシロンに、BBは何かを悟った。
後ろでJJも「うわぁー」「やらしー」とか言いながら何やらひそひそしている。
「ふぇっ?!あ、えっと、その…ちゃんと可愛がって…もら…」
案の定、ぽぽぽっとハルカは顔を赤らめて口籠ってしまった。
BBはそんなハルカを、大きな手から引き離して抱き寄せて、シロンを軽蔑の眼差しで見上げる。
「うっわ、なにニヤニヤしてんのかしら。汚らわしい」
「ああ?なんだよ、別に良いだろ?つか、離れろよ」
シロンも負けじとBBに睨みを効かしてきた。
まさに一触即発。間に挟まれたハルカが哀れにもおろおろしている。

「え、なに?なんで喧嘩始まってんの、これ!?」
「はいはい、シュウはこっち来なさい」
唐突な険悪ムードにシュウがビクビクしていると、メグが手を引いてその場から離れた場所へ誘導する。
「ケンカ、止める?」
「ほっといていいから、ズオウもこっちに来て」
反対の手でメグがズオウの手を引くと、嬉しそうにメグの後をついて来る。
「あれは関わらない方がいいぞ」
「馬に蹴られちまうぜ」
「触らぬ神に祟りなしってな」
疑問符を浮かべたままのシュウに、GWニコルが揃って首を振り、さり気なくその場から全員で距離を取る。
「確かにアレは放っておいた方が良いね」
「でもやっぱり喧嘩は良くないんだな」
「いや、確かにアレに関わらない方が良い。特に子供たちは尚の事」
ガリオンは子供たちの視界を大きな翼で隠すように広げながら、呆れたため息をついていた。
「面倒見が良いから、ああいうのほっとけないんだよな、部長」
「ああ、男運ないからなぁ。悪い男に捕まりそうなのほっとけないんだよ」
JJも揃ってため息をつき、ハルカを挟んで言い争うシロンとBBを見つめるのだった。

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